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光の雫を

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    越してきてから3回目の星降りも、佳境に入っている。
    少し離れたところがざわついているので、人が集まる一番高い丘の天辺から外れたあたりにいるのだろう。私は一人で葉ずれの音がさわめく中に立ち尽くしていた。

    元々視力はよくなかったが、今年になってからどうも急激に悪くなっている。最近では殆どぼやけた輪郭や明暗しかわからないぐらい。
    原因は…調べてもよくわからなかった。

    だから、一人で放って置かれると不安に心臓を掴まれそうになる。
    目が悪くなってから付きっ切りでいてくれる兄にも申し訳ないので、早く治したいところではあるのだが…

    「ずっとこうだったらどうしよう…」

    言葉に出すと一層、寒さが身に染みる。払いのけるように頭をふると、少し眩暈がする。

    「大丈夫?」

    よろけてしまったようだ。誰かに腕をつかまれる。
    声と身長からして若い男のようだ。

    「あ…ごめんなさい。ありがとう」
    「危ないなあ。ここ石多いし気をつけないと。」

    目が悪くて、と言うと彼は私を座れそうなところに連れて行ってくれた。

    「誰か一緒に来てないの?」
    「兄が一緒だったんだけど、飲みものを買いに行っていて…」
    「そうか、じゃあお兄さんが帰ってくるまでここ、いいかな?」

    彼が隣に座ると、ふわりといい香りが漂ってきた。

    「この辺に住んでるんだっけ?」
    「うん。毎年来てるの。」
    「俺もここんとこ毎年来てるよ。ほんっと綺麗だよねこの祭り。」

    魂だから心に響くのかもね、と微笑んだように思えた。
    星祭りはただの自然現象ではない。死者の魂が近親者に会いにくる。そして新たに亡くなった者の星を伴って天に昇るのだ。近しいものの魂が道を見失わないように。

    「誰かに会ったことはある?」
    「俺?ああ…ないね。会わないようにしてるよ。」
    「…えぇ?」
    「だってね、死んだやつより生きてて近くにいる人のほうが大事だろ?」

    感傷に浸っている時間が惜しいと言う。
    強いけど冷めていて…寂しい言葉だ。
    でも暖かく響く柔らかい声に安心してしまう。私はいつのまにか自分の目のことを話してしまっていた。

    「異常が見つからない、ってのは難儀だねえ」
    「うん… でも…」
    「どしたの。」
    「ちょっとだけ、ほっとしたの。」

    誰にも言ってなかったんだけど。

    「……兄が構ってくれるんです。」

    兄が他の子に取られてショックを受けたこと、それ以来急に調子が悪くなったこと、そして…

    「検査でわからなければ心因性かもしれないって言われて、本当は心当たりがあった。あったんです。だってあの子と会ってるところなんて…」

    見たくない。

    滔々と流れ出した言葉はそこで止ってしまった。
    彼は静かに聴いていた。見えないけれど、じっと私を見守っているのがわかる。

    「お兄さんのことを見たくない?」
    「……いいえ。」
    「嫌なことを拒否して寂しくなることは、お兄さんの顔を見るのより大事なこと?」
    「……」
    「今のままでもね、君が幸せなら。でももがいてるように見えたから。」
    「…その通り…です」

    抜け出したい。
    でも、抜けるのが怖い。そうやって自分の惰性に従っているのが本当は嫌なのに。

    「目が治ったらお兄さんはすごく喜ぶだろうね。俺も姉貴がいるんだけどさ、どんなになっても身内の絆って強いもんだよ。」
    「わかって…います。」
    「うん…いい子だね。…よぉし。俺が背中を押してやろう。」

    言われるままに目を閉じると、睫に雫がたまっているのに気がついた。

    「君とお兄さんの絆は誰に取られることもないよ。
    君が一番よくわかってる。目の開け方を教えるから、もう一度向き合ってごらん。」

    彼の指がすっと両の目を拭い、涙を取り去る。彼の掌の好い香りが、近づいて消える。
    目をあけると、大地から数え切れないほどの星が一斉に昇っていくのが見えた。
    視界が戻っている!

    「おうこっちに動いたんだな。お待たせ。」
    「…あれ… 今ここにいた人、どっか行った?」
    「?? 今か?遠くから見つけてたけど、誰もいなかったぜ?」

    ていうか目!目!と騒ぎ出す兄を見ながら、私はあの優しい彼が誰なのか、ぼんやりと気づき始めていた。
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