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がくせん!

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    殺してみるタグの涼平→ともくんでごわす



     


    「やあ大角くん。準備は整っているかね?」
    「…もちろんだ。行こう。」


    どこからともなくふわり、と紅茶の香りがしたかと思うと、なんの気配もなかった背後から天乃しず

    くが現れた。
    相変わらず不気味なやつだな…と思うが、余計なことは言わない。

    大角奉の主要業務は暗殺だ。
    確実性を増すため、白軍ではバディを組んで任務にあたることが多い。
    大角奉にも、固定の相棒がいたのだが…


    「しかし大角くん、この1年でお友達が二人もいなくなってしまったね。」
    めまぐるしいねえ、と穏やかに呟くしずく。
    わざわざ嫌なことをちくりと言ってくる。わざとなのかデリカシーがないのか…そこは入学当初より

    変わらない。

    「ところで、今日の指示はお前が知らせてくれると聞いた。ターゲットと場所は?」
    「そうだったそうだった。場所は、テトラマート近くの喫茶店だよ。ターゲットは黒軍部隊長…いや

    、諜報の氷上涼平。」


    氷上、涼平。
    これまで奉に個人的にに接触を試みてきた、黒軍の3年生だ。
    俺の何に興味を持ったんだ、と少しうんざりする。
    あの男の言うことは白々しすぎる。ああ1年のあいつと一緒じゃないか…と、わずかに眉をひそめた



    「知り合いかい?僕も一度、ティーパーティに招いたことがあってね…」
    「面識があるとなると…プランBを使った方がいいな。」
    「はは、そこは同意するね」

    小声で喋りながら二人はゆったり繁華街を歩く。

    「ここから現場までは黒軍生徒も多い。こちらの道を行った方がよかろう」
    「ああ、了解だ」


    1本道を入ると住宅街が広がり、繁華街の喧騒が夢のように思える。
    ここのパティスリーが小さいながらもなかなかよくて…などと一方的に滔々と語り続けるしずくのグ

    ルメ紹介を聞きながら、視線を上げた。
    これから人を殺しに向かうのが嘘のように、多角形に切り取られた空が青く降ってきている。

    「ところで大角君、君は今日のターゲットのことがお気に召さないのかい?」
    「別に。何故そう思った」
    「先ほど名前を聞いたとき、嫌な顔をしたからさ。君がそこまで感情を出すなんて…」


    僕と初めて会ったとき以来だ。

    「……そんなことは覚えていない。」
    「ふふ、連れないねぇ。まあいいさ。さ、もうすぐ待機地点だよ
    ……少し隠れて」

    しずくが奉の手首を掴み、引っ張った。



    ぶすり。


    「何をする?!」
    手首に鋭い痛みを感じてしずくの手を強く振り払う。
    と、奉の袖から小さなシリンジが乾いた音を立ててアスファルトに落ちた。

    「お前…どういうつもりだ…」
    「ふふっ…… 俺に初めて会ったときも、やーな顔したね!とも君!」

    肩をすくめながらしずくが距離を取った。
    なめらかなしずくの声が突如軽く張った声にかわる。
    開けたその瞳は…燃えるような赤色だった。

    「氷上……涼平……!」
    「中々難しかったよこの人ー。変装するのー。」
    咄嗟に剣の柄に手をかけようとしたが、右手は空を切った。
    疑問を感じる暇もなく、内臓から燃えるような痛みが這い上がってくる。
    地面に膝をつき、体を支えることもできず力が抜けていった。

    涼平がしゃがんで奉の苦痛に満ちた顔を覗き込む。
    そこには先ほどまでの紳士的な佇まいはかけらもない。
    見覚えのある悪戯っ子のような目が、三日月形をかたどった。
    「ごめんね。お前の暗殺命令、出ちゃったから。
    ウチ、人手不足でさ〜、ってどうでもいいか。」

    しっかしみつはのくれた神経毒、効くな〜…と呟きながら、軽やかな足音は遠くなっていった。
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